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Dick Whittington and His Cat
Dick Whittington (ディック・ウィティトン)は、1397年、1397−8年、1406−7年、1419−20年の計4回、ロンドン市長を務めた実在の人物です。市長を4期もつとめたという事実からも伺われるとおり、イギリス(ロンドン)でもっとも有名で、もっとも愛された人物のひとりであり、彼の生涯は、時代を越えて、多くのロンドンっ子たちによって語り継がれてきました。その結果、家柄もよく、裕福な商人であった彼の半生は、しだいにロンドンっ子たちによって少しずつおもしろおかしく「脚色」され、やがて、イギリス人のお気に入りの「昔話」のひとつとして定着したのです。「ディック・ウィティントンとネコのお話」が最初に文字のかたちで記録されたのは1605年だと言われていますが、その後も、さまざまな絵本や芝居に登場し、現代も変わることなく愛されて続けています。ここでは、ごく簡単にそのあらすじをご紹介しましょう。
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| むかしむかし、ロンドンから遠く離れた農村に、ディック・ウィティントンという名前の貧しい男の子がいました。 両親は懸命に働きましたが生活は苦しく、ディックが12才の時、両親は亡くなりました。 ひとりぼっちになったディックは首都ロンドンに向けて旅立ちました。「ロンドンの道には金が埋まっている」と聞いたことがあったからです。 ポケットには小銭だけをもって、ディックはロンドンを目指して歩きました。 「ロンドンに着いたら、金をたくさん見つけてお金持ちになるんだ!」 ロンドンに着いた頃にはもうすっかり日が暮れていました。疲れきったディックは、ある商人の家の前で眠ってしまいました。 次の朝、商人の家の娘、アリスがディックを見つけました。「さぁ、入って!お腹が空いているのでしょう?」 商人一家はディックに優しくしてくれました。ディックに食べ物をくれただけでなく、家の裏庭にある小さな部屋に泊めてくれました。 疲れきっているのに、ディックは眠れませんでした。裏庭の小部屋にネズミがたくさん住んでいて、一晩中走り回って大騒ぎしていたのです。 ある日、ディックは、市場でおばあさんがネコを売っているのを見つけました。 そうだ!ネコがいれば、あのネズミたちを退治してくれる!ディックはおばあさんに訊ねました。 「おばあさん、そのネコいくらなの?」 「一匹5ペンスだよ。」 「そうか…。ぼく、2ペンスしか持ってないんだ。」 「おまえは正直でいい子だね。じゃ、この痩せた黒ネコを2ペンスで売ってあげるよ。」 こうしてディックの裏庭にネコがやってきました。 ネコはディックの部屋に入ってくるネズミを片っ端からつかまえては食べていたので、あっという間にムクムクと太っていきました。 さて、ディックが居候をしている家の商人は、毎年、毎年、船をつかって外国に商品を送っていました。 海外で商売をして、財を成していたのです。ある日、商人がディックにいいました。 「おまえもわしの船で何かを送ってごらん。そうやって自分でお金を稼いでみるといい。」 「でも、ぼく、何も持ってないよ…。ぼくにあるのはネコだけなんだもの。」 「じゃ、そのネコを送ってみてはどうかな?」 そこでディックは黒ネコを海外へと送ったのでした。 その後、長い長い間、船からは何のたよりもありませんでした。 ロンドンの道に金が埋まっていないことを知ってがっかりしていたディックは、田舎に帰ろうと思いました。 ある日、商人にもアリスにも「さよなら」を告げずに、ディックはそっと家を出ました。 ところが、ロンドンを離れようとした時、大聖堂の鐘の音がディックの耳に飛び込んできました。 鐘の音はこう繰り返しました: 〜戻っておいで、ディック・ウィティントン!戻っておいで、ディック・ウィティントン!お前は、ロンドン市長になる!3度、ロンドン市長になる!〜 ディックははっと足を止め、ロンドンに戻りました。 数日後、船からたよりが届きました。 商人の船はいくつかの国を巡っていましたが、そのなかのひとつの国で奇妙なことが起こっていたのでした。 その国の王様が船長をパーティに招待しました。テーブルはありとあらゆる豪華な食べ物で埋め尽くされていましたが、 みんなが食べようとした瞬間、どこからともなくネズミたちが出てきて、テーブルの食べ物を食い荒らしてしまったのです。 「あぁ、まただ!このネズミたちが余の頭痛のタネなのじゃ。」と王様は嘆くのでした。 そこで、船長は胸を張って答えました。 「王様、ネズミどもを退治してご覧に入れましょう。」 「もしそんなことができたら、余の国を譲ってもよいぞ!」 船長は、ディックの黒ネコを連れてこさせました。 ネコはネズミを見つけるなり、数匹をつかまえて食べてしまいました。 それを見た他のネズミたちはいのちからがら逃げました。 船長は王様に言いました。 「この素晴らしい生き物はネコと申します。これがネズミを退治してくれます。」 「何と素晴らしい、不思議な生き物じゃ!」王様は感嘆の声をあげ、何袋もの金で黒ネコを買ったのでした。 船がロンドンに戻ると、ディックは、一躍、大金持ちとなったのです。 ディックはアリスと結婚しました。 そして、その後、そう、あの日大聖堂の鐘が預言したとおり、ディックは3度もロンドン市長に選ばれたのでした。 おしまい。 |
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JELICLE SONGS FOR JELICLE CATS
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Can you ride on a broomstick to places far distant?
Familiar with candle, with book and with bell?
Were you Whittington's friend? The Pied Piper's assistant?
Have you been an alumnus of heaven or hell?
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『ジェリクル・ソング』 (Translation: Shinako IMAIZUMI)
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ほうきに乗って、遠くまで飛べる?
ろうそく、本、鐘に馴染みは?
ウィティントンの友達だったの?
笛吹男を手伝ったことは?
天国や地獄の同窓名簿に名前はある?
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「選ばれしネコ(=ジェリクル・キャット)」になるための、ありとあらゆる条件を順に歌い継いてゆくナンバーのなかで、「ウィティントンの友達だったの?」という歌詞が出てきます。ウィティントンの唯一の友として海を渡ったあの黒ネコは、ネコの世界のヒーローなのです。でも、日本の子どもたちに「ウィティントンの友達」なんて言っても、残念ながら馴染みがないので、歌の楽しさが半減してしまいます。日本版『キャッツ』で演出、訳詞を担当された浅利慶太氏は、この部分を次のように訳しています:
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どんなときでも遊べるのか
冒険にはいどめるか
夢のなかに、天国にも
地獄にも友だちは?
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素敵な訳ですが、昔話に登場するネコ像が薄れてしまっているのが少し残念です。イギリスと日本の子どもたちが親しんでいる文化に隔たりがあるので、これは致し方ないことなのかもしれませんね。
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さて、『キャッツ』の原作は、イギリスの(ページ下の注)も参照)詩人であり、劇作家のT.S.Eliot(T.S.
エリオット)が子供たちのために書いた詩集Old Possum's Book of Practical Cats(=『おとぼけじいさんのネコ行状記』。『おとぼけおじさんのネコとつきあう法』という訳も。Old
Possumは、エズラ・パウンドが彼につけたニックネーム)という、様々なネコのお話を集めた詩集です。ミュージカルに登場する、個性的で魅力的なネコたちの大半はこの愛すべき詩集から生まれました。
「おとぼけおじさん」の死後、ロイド・ウェバーの手によってネコたちはミュージカルの世界に再生し、文字通り「永遠のいのち」を得ることになったわけですが、ネコたちがロンドンの演劇界に与えたインパクトははかり知れないほど大きなものでした。明確なプロットのない、スキットの連続による舞台進行、すべてネコの目線で見た構図、サイズで造られた装置、回り舞台、そして人間が一切登場しない、ネコによる、ネコのための、ネコのミュージカルという型破りな演出と振付。すべてがあまりにも斬新で、当初は戸惑いを隠せなかった観客が、ネコの世界に魅せられまでに時間はかかりませんでした。そして、大型ミュージカルとしては世界最長の上演回数を今日も更新しているのです。
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| T. S. Eliot作 Old Possum's Book of Practical Cats |
Old Possum's Book of Practical Catsの おとぼけおじさん"こと、T. S. Eliot |
ミュージカル『キャッツ』の作曲・演出の Andrew Lloyd Webber |
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そういえば、イギリスの人たちと一緒にいると、時にネコと一緒にいる時とよく似た感覚におそわれることがあります。少しシャイで、とっても慎重。礼儀正しく、最初は少し距離を置いてこちらを見ている。でも、瞳の奥には懐かしいような慕わしさが溢れ、少しずつ、少しずつ、わからないくらい少しずつ、距離を縮めてくる。そっと手で触れられる距離までお互いに近づくと、その手は驚くほど、あたたかい。一度、心を通わせた相手を決して忘れることはなく、だからといって、常に一緒にいるわけではない。ひとりの時間と空間を愛し、どこまでも誇り高い。おとぼけおじさんが愛したネコたち、ロイド・ウェバーが夢見た世界は、イギリスという国で生まれるべくして生まれたのかもしれません。
痩せて、お腹がすいていても、そんなことは気にもかけない風情で、誇り高くネコたちが駆け抜けるカレッジ・ヒルの石畳に、今日もディック・ウィティントンのプラークがそっと輝いています。
最後に、『キャッツ』をしめくくる最後のナンバーをご紹介しましょう。今日、もしあなたがネコに出会ったら、ご挨拶を忘れないで下さいね。挨拶には、そりゃもう厳しい方たちですから、イギリス人も、ネコも、ね。
THE AD-DRESSING OF CATS
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You've heard of several kinds of cat
And my opinion now is that
You should need no interpreter
To understand our character
You've learned enough to take the view
That cats are very much like you
You've seen us both at work and games
And learnt about our proper names
Our habits and our habitat
But how would you ad-dress a cat?
So first, your memory I'll jog
And say: A cat is not a dog
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『ネコにご挨拶』 (Translation: Shinako IMAIZUMI)
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こうして、数匹のネコの話を聴いた今、、
私があなたに言えるのは、
「通訳なんかはいらないでしょ?
ネコのキモチを知るために。」
ちょっと見れば、もうわかる、
ネコはあなたによく似てる。とってもとってもよく似てる。
はたらくときも遊ぶときも、
ネコの呼び名もわかったでしょ。
ネコの生活、ネコのすみかももうわかるでしょ。
でももうひとつ大事なのは、
ネコにご挨拶する方法。
とっても簡単。これだけ忘れずに言って下さい:
「ネコはイヌにあらず」と。
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参考資料:
上記のあらすじは、Robert M Flynn著 New Progress in English Book 3 (イエズス会出版)所収の、Dick Whittington and his cat (p. 64--66)を参考にしています。
「お話」についての詳細や、史実に沿った「本当の半生」については:
ロンドン総合情報サイト"All Info About London"The Real Dick Whittington"
はこちら。
民話を集めたサイト"Long Long Time Ago"の"Dick Whittington And His Cat"はこちら。
ミュージカル『キャッツ』の公式サイト:

Andrew Lloyd Webberの公式サイト:

T.S. Eliotについてはこちら:
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注)T.S. Eliotは、アメリカのミズーリ州セントルイス生まれで、ハーバード大を卒業後、ヨーロッパ各地と米国を往復し、研究活動を行ったため、このページでは、「アメリカの詩人」として分類されている。