ジャズ・シンガー The Jazz Singer
作成者:K.O.

当時のスーパースター、アル・ジョルソンの半生に基づいてサムソン・ラファエルソンが書いたブロードウェイのヒット戯曲 (1925年) の映画化で、トーキー時代の到来を告げる画期的な作品として名高い。同時にそれは、映像と音楽を結びつけた新しい芸術、ミュージカル映画の誕生でもあったことを忘れてはならない。アル・ジョルソン自身が主役を演じ、数々の名唱を聞かせてくれる。彼の「お楽しみはこれからだ」("You ain't heard nothin' yet.") は映画史上もっとも有名な台詞の一つであるが、これはジョルソン自身が実際に彼の舞台で使っていた言葉である。
作品デー タ 監督:アラン・クロスランド Alan Crosland
脚本:アルフレッド・A・コーン Alfred A. Cohn
カメラ:ハル・モーア Hal Mohr
キャスト:アル・ジョルソン Al Jolson
     メイ・マカヴォイ May McAvoy
     ワーナー・オーランド Warner Oland
     ユージニー・ベッセラー Eugenie Besserer
制作国:アメリカ
公開年:1927年;日本公開 1930年
ストーリ ー ニューヨークに住むジェイキー少年は、ユダヤ教会の先唱者のラビノウィッツ(ワーナー・オーランド)のひとり息子である。父は息子に後を継いでくれることを強く望んでいるが、少年はジャズ歌手になることを夢見ている。ある日少年が酒場でジャズを歌っていることを父親に知られてしまい勘当される。数年後、成長したジェイキー(アル・ジョルソン)は、ジャック・ロビンに改名し、地道に歌手として働いている。やがて売れっ子のミュージカル女優(メイ・マカヴォイ)と知り合い、彼女の後押しでブロードウェイの舞台に立つチャンスをつかむ。父親との和解を望むジャックであるが、厳格な父は頑な姿勢を崩さない。舞台の初日、母親(ユージニー・ベッセラー)は息子を劇場に訪ね、瀕死の父に代わって讃美歌を歌ってくれるように嘆願する。ジャックは悩んだ末、成功のチャンスを捨て、教会で「贖罪の歌(コル・ニドレ)」を歌う。それを聞きながら、父は「息子が戻ってきてくれた」という言葉を残して安らかに息を引き取る。月日が経ち、ブロードウェイの大劇場には、大勢の観客と母親の前で「マミー」を歌うジャックの姿があった。いったん舞台を捨てたジャックであったが、ジャズ歌手として成功の道を歩んでいることが暗示される。
作品評
映画史においては、作品自体の美しさとは別に、映画産業の振興に貢献したことで大きな注目を集めたものもある。アラン・クロスランド監督の『ジャズ・シンガー』もそのひとつで、「金になる芸術作品」としての映画制作が可能であることを証明した。1927年にワーナー・ブラザースから公開され、当時の有名歌手アル・ジョルソンを主演に据えた本作品が、映画史上初の長編ミュージカル映画であることは、誰もが認めるところだろう。歌のシーンやその前後の台詞に限られてはいるものの、作品中に音声を取り入れ、映画産業に画期的な変化をもたらした。これほど大きな変革をハリウッドに引き起こした映画は見当たらない。・・・新しい形の映画、もしくはエンターテインメントへの流れを生み出す決定打となった映画史上に残る記念碑的作品『ジャズ・シンガー』は、単なる「史上初のトーキー映画」ではない。高名な政治学者マイケル・ロジンによると、本作品は米国社会においてユダヤ人たちが起こした変革の代表例なのだという。すなわち、米国白人社会への同化、より緩やかな教義への改宗、トーキー時代におけるユダヤ資本のアメリカ映画産業への参入がそこには見られる。

(スティーヴン・ジェイ・シュナイダー総編集『死ぬまでに観たい映画1001本』笹森三和子訳、ネコ・パブリッシング、2004 )